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最高裁判所第一小法廷 昭和48年(オ)502号 判決 1975年3月06日

上告人

新薬師寺

右代表者

福岡隆聖

右訴訟代理人

中西保之

被上告人

菅原寿雄

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人中西保之の上告理由第一点について。

原判決は、上告人が被上告人に対して本件仏像を売り渡すにつき新薬師寺規則二〇条及び華厳宗規則二三条の規定による華厳宗代表役員の承認を受けなかつたから、右売買契約は無効であるが、宗教法人法二四条但書により上告人は善意の相手方である被上告人にその無効をもつて対抗することができない、と判断したものであることが判文上明らかである。

論旨は、原判決を正解することなくこれを非難するものであつて、採用することができない。

同第二点について。

文化財保護法(昭和四三年法律第九九号による改正前のもの)は、同法四六条一項所定の国に対する売渡の申出をせずになされた重要文化財の有償譲渡の効力についてなんら規定するところがない(現行法も同じである)。

しかしながら、文化財保護法の施行とともに廃止された国宝保存法一三条一項は主務大臣の許可を受けない国宝の処分行為を禁じていたが、文化財保護法にはそのような規定がなく、同法四六条一項ないし三項は、所有者の自由な処分権限を前提として重要文化財の保存を目的とする国の先買権を規定したにとどまるものと解すべきであり、また、主務大臣の許可を受けない国宝の処分行為を無効とした国宝保存法一三条三項のような明文を欠く文化財保護法のもとにおいて、同法四六条一項所定の国に対する売渡の申出をせずになされた重要文化財の有償譲渡を無効とすることは、著しく取引の安全を害し、譲受人に不当な損害を及ぼすことになるのみならず、同条一項の適用を受けない無償譲受人との均衡を失することにもなるのであつて、以上のような見地に立脚して考えると、重要文化財が同条一項所定の手続を経ずに有償譲渡された場合であつても、その効力には影響がないものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、上告人は被上告人に対して本件仏像を売り渡すにつき同条一項所定の国に対する売渡の申出をしていないけれども、そのことは上告人と被上告人との間の売買の効力に消長をきたすものではないというべく、これと結論を同じくする原審の判断は、正当として是認することができる。

原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(下田武三 藤林益三 岸盛一 岸上康夫)

上告代理人中西保之の上告理由

第一点 <略>

第二点 文化財保護法第四六条によれば、重要文化財を有償で譲り渡そうとする者は先づ文化財保護委員会に対し、譲受人の住所、氏名、譲渡代金等を具体的に記載し書面をもつて国に対する売渡の申出をしなければならないと規定されている、従つて、重要文化財を有償で譲渡そうとするときは、其都度文化財保護委員会に対し、前記条件を記載した書面をもつて、国に対する売渡しの申出をしなければならないのであつて、此義務に違背した場合は処罰されることとなつている(同法第一一〇条三)

此法規は、文化財保護の見地から国において譲受人の適否を判断し、或は国が買取り、或は其者との間の譲渡を認めんとする法意であること明らかであつて、罰則の規定を設けて其履行を強要している、然るに本件においては此手続が全然採られていないので、係争譲渡契約は明らかに無効である。

上叙の通り本件無効の取引を、有効の如く判断した原判決は破毀せらるべきであると信ずる。

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